ビタミン&カルシウム
彼女は先の大戦について考えもしなかった。
「ねぇ、君は甘いものとか食べるの?」
セーラー服が夏服に代わり、彼女の様相も涼しげになっていた。彼女のような人たちは、季節の流れに敏感で、風に夏の香りがしたらその様に自分を変化させる。
僕らのように鈍感ではないのだ。
24にもなれば鈍感になる、様々なことに。しかし、心の奥底には少年なり少女が居続けるから、けして鈍感というものの苦しさを感じないわけではないのだ。そう、少なくとも僕は。
「好きだよ」
僕の場合、不思議と内臓の衰えはなくて、若かかりし日々の頃と比べても食欲は落ちていない。幾らか前に健康食にはまっていく世代やメディアの流れのなかで、薄味の食事や牛肉を排除した食事に傾倒仕掛かった事もあったけれど、今は違う。そんな気の迷いも遠い昔のことなのだ。
"以外だね"と彼女が言う。
黒い目が大きい、鼻が高い、笑うと白い八重歯が姿を表す。
美しい顔立ちだ。
部活の関係で髪を短くしてはいるけれど、少女らしさが無いわけではない。それに僕は短い髪の女性が好きだ、ずっと昔から、つまり幼少期から。
母親が髪が長かったことへの反面教師だったのかもしれないし、ジーンセバーグがショートカットだったからかもしれない。しかし、何かと真剣に恋に落ちた女性は長い髪の人が多かった。特に僕の人生を一時は奈落の底へ引き釣り落とした女性は僕の知る女性のなかで一番髪が長かった。
"罪のない女"
彼女はなにも僕にたいして、ギリシャ神話のメデューサ的対応をしたわけでわない。
何はともあれ、髪の短い女性が好きというスタンスを変える気はない。次の彼女にだって、もしその人が長い髪をしていたらショートヘアーを勧めるのだろう。その人は僕の事をファシストに感じるだろか?
「以外かな?」
「だって酒とつまみしか食べないから」
「そんなことないよ、それに甘いつまみだってあるんだよ」
「酎ハイとか甘いしね」
「甘味のない酒なんてない、きっとね」
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